AIと一緒に立てた計画が、「実行してみたら全然その通りに進まなかった」という経験はありませんか?
計画そのものは筋が通っていた。でも現実には、想定外の割り込み、気力の低下、家族の予定。計画は「すべて順調に進む世界」を前提に作られがちで、現実はそうではない。この楽観バイアスは、AIが立てる計画にもしっかり入り込みます。
今回紹介する 自己Pre-Mortem(プレモータム) は、計画を立てた直後に「この計画は失敗に終わりました。何が起きたのでしょうか?」と、失敗した未来から逆算させる型です。
Pre-Mortemとは?
Pre-Mortemは、一言でいうと「『すでに失敗した』と仮定して、その原因を先に洗い出す」思考法です。
Mortem(検死)をPre(事前)にやる、という名前の通り、プロジェクトの死因を、死ぬ前に解剖してしまうわけです。もともとは心理学者のゲイリー・クラインが提唱した、ビジネスの意思決定手法として知られるものです。「うまくいかない可能性はありますか?」と聞くより、「失敗したと仮定して、原因を挙げてください」と聞く方が、人はリスクを具体的に語れる。この性質を利用しています。
📎 Gary Klein (2007) “Performing a Project Premortem”, Harvard Business Review
https://hbr.org/2007/09/performing-a-project-premortem
今回の型は、この手法をAIとの計画づくりに応用したものです(この応用の仕方自体は特定の研究に基づくものではなく、実務的なアレンジです)。ポイントは、計画を作ったAI自身に、直後の追い打ちとして検死をやらせること。「自己」Pre-Mortemと呼ぶのはそのためです。
なぜ効くのか
①「失敗した」と断定すると、リスクの解像度が上がる
「リスクはありますか?」と聞くと、AIは「〜の可能性があります」という薄い一般論を返しがちです。「失敗しました。何が起きた?」と過去形で断定すると、具体的なストーリーとして原因を語り始めます。質問の時制を変えるだけで、答えの具体性が変わります。
②計画の「前提」が明るみに出る
失敗原因を挙げさせると、「毎週末2時間確保できる前提だった」のような、計画に暗黙のうちに埋め込まれていた前提が言語化されます。崩れやすい前提が見えれば、そこに保険をかけた計画に作り直せます。
コピペOKプロンプト
AIが計画を出してきた直後に、これを投げます。
いま作ったこの計画は、残念ながら失敗に終わりました。
検死官として、失敗の原因として最も可能性が高いものを
5つ、具体的なストーリーで挙げてください。
そのうえで、その5つの失敗を防ぐ対策を計画に組み込んだ
「改訂版の計画」を出してください。
「具体的なストーリーで」の指定が効きます。「モチベーションの低下」で終わらせず、「3週目の雨の週末に一度スキップし、そのまま再開のきっかけを失った」のような場面まで書かせる。場面が見えれば、対策も具体的になります。
実践例:before / after
「年末の大掃除を12月の4週末で終わらせる計画」で試してみました。毎年計画倒れになる行事の代表格です。
🔴 before:計画をそのまま採用した場合
AIが出した計画は「第1週:キッチン/第2週:水回り/第3週:窓・ベランダ/第4週:床と仕上げ」という、きれいな週割りでした。一見完璧。でもこれ、4週末すべてが自由に使えて、天気も体調も良好という前提の計画です。わが家の12月に、そんな週末は存在しません。
🟢 after:自己Pre-Mortemをかけた場合
検死官の失敗原因トップ5には、「第3週の窓掃除が雨で流れ、翌週に2週分が積み重なって心が折れた」「12月後半に忘年会・クリスマス準備が割り込み、第4週がほぼ消滅した」という、身に覚えしかないストーリーが並びました。改訂版の計画では、①天候に左右される窓・ベランダを第1週に前倒し、②各週に「30分だけの最低ライン」を設定(完璧にやる日と、最低限の日を分ける)、③第4週は最初から予備日として空ける、という失敗前提の構造に変わりました。計画の見た目は不格好になりましたが、完走できる計画とはこういうものです。
使いどころと注意点
✅ こんな場面で使う
- 数週間以上かかる計画全般(掃除・勉強・貯金・準備ごと)
- 過去に同じ種類の計画で挫折した経験があるとき
- 計画がきれいすぎて逆に不安なとき
❌ これには向いていない
- 数時間で終わる単発タスク(検死するほどの失敗要素がない)
- 失敗のダメージがほぼない気軽な予定(コストに見合わない)
注意点として、失敗原因の中には自分の生活実態と合わないものも混ざります。検死結果は5つ全部を対策するのではなく、「これはうちで確実に起きる」と思えるものを2〜3個選んで組み込むのが現実的です。対策を盛り込みすぎた計画は、それ自体が新しい失敗原因になります。
🔧 上級者向け:自分の「過去の死因」を渡す
ここは応用の話なので、読み飛ばしてOKです。
検死の精度を上げる最強の材料は、自分の挫折の履歴です。「過去にこの種の計画で挫折した原因:①年末の繁忙期を甘く見た ②初週に飛ばしすぎた」のように実際の死因を渡してから検死させると、一般論ではなく「あなた専用の失敗パターン」に基づいた対策が返ってきます。第28話のプレイブックに「自分の挫折あるある」を貯めておくと、ここで効いてきます。
まとめ
- 自己Pre-Mortemは「失敗したと断定して原因を語らせ、対策込みの改訂版を作る」型
- 過去形の断定+具体的なストーリー指定が、リスクの解像度を上げる
- 対策は2〜3個に絞る。盛り込みすぎは新たな失敗原因
次にAIと計画を立てたら、採用する前にひとこと「この計画は失敗しました。なぜ?」と聞いてみてください。きれいな計画が、完走できる計画に変わります。
⚠️ この記事の情報は執筆時点(2026年6月)の内容です。AIツールの仕様・挙動はアップデートで変わることがあります。最終確認は各サービスの公式サイトや一次情報でお願いします。
📎 引用・参考
・Gary Klein (2007) “Performing a Project Premortem”, Harvard Business Review, September 2007
https://hbr.org/2007/09/performing-a-project-premortem
次回予告
次回は「Calibrated Confidence(確信度の見える化)」を紹介します。AIの回答に「どのくらい自信があるか」を併記させて、信じていい情報と要確認の情報を見分ける型です。
👉 Calibrated Confidenceとは?AIの回答に確信度を付けさせるプロンプト術


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