今日から話していくのは、「プロンプトの外側を作る」方法です。この章のテーマは、1回の指示の質を上げる話ではなく、AIが動き続けるための「仕組み」を作る話です。
複数ステップのタスクをAIと進めていて、こんな経験はありませんか。最初の数ステップは丁寧なのに、後半になると確認が雑になり、気づいたら最初の目的から少しズレた方向に進んでいる。1問1答なら起きない問題が、長いタスクだと起きます。
今回紹介する Execution Loop(実行ループ) は、タスクの毎ステップで「観察→思考→自己批判→行動」の4段階を必ず踏ませる型です。
Execution Loopとは?
Execution Loopは、一言でいうと「1ステップ進むごとに、現状確認と自己チェックを強制するサイクル」です。
たとえると、車の運転です。上手なドライバーは「ミラーで確認→次の動きを判断→リスクを一瞬考慮→操作」というサイクルを無意識に回し続けています。確認を飛ばして操作だけする運転が危ないのと同じで、AIも「行動」だけを連続させると事故が起きます。確認と自己チェックをサイクルに組み込むのがこの型です。
4段階はこう回ります。
- 観察:いま何がどこまで終わっているかを記述する
- 思考:次に必要な一手と、その理由を書く
- 自己批判:その一手の盲点・リスクを1つ挙げる
- 行動:盲点を踏まえて修正した最終アクションを実行する
元になった研究について
「推論と行動を交互に繰り返す」という発想は、2022年に発表されたReActという研究が源流です。推論の痕跡を書きながら行動することで、計画の維持・更新や例外への対応がうまくなると報告されており、その後のAIエージェント研究の土台になった論文の1つとされています。この記事の型は、そこに「自己批判」のステップを加えた実用アレンジです。
📎 Yao, Zhao, Yu, Du, Shafran, Narasimhan, Cao (2023) “ReAct: Synergizing Reasoning and Acting in Language Models”, ICLR 2023
https://arxiv.org/abs/2210.03629
なぜ効くのか
①「現在地の確認」が毎回入るから、ズレが蓄積しない
長いタスクの方向ズレは、小さなズレの積み重ねです。毎ステップの「観察」で現在地を言語化させると、ズレがその場で表面化し、次のステップで補正されます。
②「自己批判」が雑な一手を止める
盲点を1つ挙げるステップがあると、AIは自分の提案を一度疑ってから実行します。Day 13で見た「生成と評価の分離」を、ステップ単位のミニ版として毎回回すイメージです。
コピペOKプロンプト
複数ステップのタスクを始めるとき、冒頭にこれを付けます。
以下のタスクを実行する際、毎ステップで次の4段階を
必ず順番に書いてから進めてください。
①観察:「現状の状態を3行で記述」
②思考:「次に必要な一手と理由」
③自己批判:「その一手の盲点を1つ」
④行動:「修正後の最終アクション」
タスク:[ ]
「必ず順番に書いてから」の一文が要です。頭の中でやらせるのではなく、4段階を出力として書かせることで、サイクルの省略ができなくなります。
実践例:before / after
「引っ越しの準備を2か月前から段取りする」タスクで試してみました。やることが多く、順序も大事な、複数ステップタスクの代表です。
🔴 before:普通に進行を任せた場合
「引っ越し準備を順番に進めたいので仕切ってください」と頼むと、最初は「まず業者の見積もりですね」と丁寧でしたが、進むにつれて「次は荷造りですね。次は住所変更ですね」とただの順送りに。わたしが「実は退去の連絡がまだ」と伝えるまで、その抜けに気づきませんでした。退去連絡は1か月前が期限のことが多い、引っ越し準備で最も落とせない項目のひとつです。
🟢 after:Execution Loopを組み込んだ場合
引っ越し準備(2か月後に実施)を段取りしてください。
毎ステップで次の4段階を必ず順番に書いてから進めてください。
①観察:「現状の状態を3行で記述」
②思考:「次に必要な一手と理由」
③自己批判:「その一手の盲点を1つ」
④行動:「修正後の最終アクション」
→ 結果:2ステップ目の自己批判で「盲点:業者選びに集中すると、現住居の退去通知(多くは1か月前期限)を後回しにするリスクがある」という指摘が自発的に出ました。④の行動は「業者見積もりと並行して、今週中に賃貸契約書の解約予告期間を確認する」に修正。こちらが気づく前に、AIが自分でリスクを拾って軌道修正する流れが毎ステップで回りました。
使いどころと注意点
✅ こんな場面で使う
- ステップが5つ以上ある段取りごと(引っ越し・行事準備・手続きもの)
- 抜け漏れが致命的になるタスク(期限もの・申請もの)
- 途中で状況が変わる可能性のある進行管理
❌ これには向いていない
- 1〜2ステップで終わる作業(4段階の記述が冗長になる)
- とにかく速さ優先の場面(サイクルのぶん出力は長くなる)
注意点として、観察ステップの内容が現実とズレていたら、その場で訂正してください。「観察」はAIが把握している現状であって、実際の現状ではありません。ズレた観察の上で回るループは、ズレたまま加速します。各ステップの①だけは流し読みせず確認するのがコツです。
🔧 上級者向け:1メッセージ1ステップで回す
ここは応用の話なので、読み飛ばしてOKです。
重要なタスクでは、「1回の返信につき1ステップだけ進めて、わたしのOKを待ってください」を追加する方法があります。各ステップの④(行動)の前に人間の承認が挟まるので、AIの独走を完全に止められます。時間はかかりますが、失敗できない手続きものではこの承認付きループが最も安全です。
まとめ
- Execution Loopは「観察→思考→自己批判→行動」を毎ステップ書かせる型
- 現在地確認でズレの蓄積を防ぎ、自己批判で雑な一手を止める
- 観察ステップと現実のズレだけは人間が確認する
段取りの多いイベントを控えている方は、その準備でこの型を試してみてください。「言われる前に抜けに気づくAI」の頼もしさは、一度体験すると手放せなくなります。
⚠️ この記事の情報は執筆時点(2026年6月)の内容です。AIツールの仕様・挙動はアップデートで変わることがあります。最終確認は各サービスの公式サイトや一次情報でお願いします。
📎 引用・参考
・Yao et al. (2023) “ReAct: Synergizing Reasoning and Acting in Language Models”, ICLR 2023
https://arxiv.org/abs/2210.03629
次回予告
次回は「Context Compaction(コンテキスト圧縮)」を紹介します。長引く会話を、一定の間隔で決まった形式に圧縮しながら進める型です。第23話の引き継ぎメモの「同一会話内バージョン」とも言えます。
👉Context Compactionとは?長い会話を定期的に圧縮するプロンプト術


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