AIに「今の回答、自分で見直して改善して」と頼んだのに、「全体的によく書けています。細部を少し調整しました」と前とほぼ変わらない出力が返ってきたこと、ありませんか。
人間でも、自分の書いたものを自分で採点すると甘くなります。作った本人の目線のままでは、粗は見えにくい。AIも同じで、生成した流れのまま「見直して」と言われても、自分の出力を肯定する方向に働きがちです。
今回紹介する Evaluator-Optimizer(評価者・最適化者) は、この問題を「人格の完全分離」で解決する型です。役者と審査員を別人にする。それだけで採点の辛口度が変わります。
Evaluator-Optimizerとは?
Evaluator-Optimizerは、一言でいうと「生成する人格と評価する人格を完全に切り替えさせて、生成→採点→改善のループを回す」手法です。
たとえると、オーディション番組です。歌う人と審査員が同一人物だったら、審査は成立しません。歌い終わった人が審査員席に座り直して、「さっきの歌はここが弱い」と他人として評価するから、具体的なダメ出しが出てくる。この座席の移動を、プロンプトの中で明示的にやらせます。
この型は、AnthropicのAIエージェント設計ガイドでも「Evaluator-Optimizer」というワークフローパターンとして紹介されています。1つのLLMが応答を生成し、別のLLMが評価とフィードバックをループで返すという構成で、明確な評価基準があり、反復改善に価値があるタスクで特に有効とされています。本来は2つのAIを組み合わせる設計ですが、1つのチャット内で人格を切り替えさせることで再現できます。
📎 Anthropic “Building effective agents”(公式エンジニアリングブログ)
https://www.anthropic.com/research/building-effective-agents
なぜ効くのか
①「人格を切り替える」と明示すると、評価の立ち位置が変わる
Day 2のSelf-Refineでも自己評価はさせましたが、この型はさらに一歩進めて「人格を完全に切り替えてください」と指示します。同じAIでも、「生成の続きとしての見直し」と「別人格としての審査」では、出てくる指摘の鋭さが変わります。
②点数と減点理由をセットで出させると、ごまかしが効かなくなる
「良い/悪い」の印象評価では、当たり障りのないコメントで済んでしまいます。「100点満点で採点+減点理由を5項目」と形式を固定すると、評価役は具体的な粗を探さざるを得なくなります。この「探さざるを得ない」状況を作るのがポイントです。
コピペOKプロンプト
以下をそのままコピーして、「[ ]」にお題を入れてください。
以下のお題に対し、まず「生成役のAI」として最高の回答を作成してください。
次に人格を完全に切り替え、「辛口の評価役のAI」として、
その回答を100点満点で採点し、減点理由を5項目挙げてください。
最後にまた生成役に戻り、評価を踏まえた完全版を作成してください。
お題:[ ]
「人格を完全に切り替え」という表現がこの型の核です。「見直して」ではなく「別人になって審査して」。この言葉の違いが、評価の質の違いになって返ってきます。
実践例:before / after
「健康診断で運動不足を指摘された人向けの、無理なく続く運動習慣プラン」というお題で試してみました。三日坊主で終わりがちなテーマの定番です。
🔴 before:「見直して」と頼んだ場合
「運動習慣のプランを作ってください。作ったら自分で見直して改善してください。」
→ 結果:プランが出たあと、「見直した結果、週3回のウォーキングを週2回に調整し、より続けやすくしました」という微修正だけで終わりました。「どこが問題だったのか」の言及はなく、見直しというより微調整。最初の出力とほぼ同じものが2回出てきた印象です。
🟢 after:Evaluator-Optimizerを使ったプロンプト
以下のお題に対し、まず「生成役のAI」として最高の回答を作成してください。
次に人格を完全に切り替え、「辛口の評価役のAI」として、
その回答を100点満点で採点し、減点理由を5項目挙げてください。
最後にまた生成役に戻り、評価を踏まえた完全版を作成してください。
お題:健康診断で運動不足を指摘された30代会社員向けの、
無理なく続く運動習慣プラン
→ 結果:評価役の採点は62点。減点理由には「挫折した日のリカバリー手順がない。雨の日の代替案がない。『慣れてきたら増やす』の基準が曖昧。モチベーションが下がる4週目への対策がない。効果を実感できる指標がない」という5項目が並びました。完全版ではこの5つすべてに対応が入り、「続かない理由」を先回りで潰したプランに変わりました。微調整とは別次元の改善です。
使いどころと注意点
✅ こんな場面で使う
- 計画・企画・構成など、穴があると困る成果物
- 「自分で見直して」と頼んで微修正しか返ってこなかったとき
- 提出・共有する前の最終チェックとして
❌ これには向いていない
- 評価基準が曖昧なもの(好みの問題になり、辛口が単なる難癖になる)
- 最初の出力で十分なクオリティが出る簡単なタスク
注意点として、評価役の採点は絶対的なものではありません。62点という数字自体に意味があるのではなく、減点理由の5項目が「改善の手がかり」として使えるかどうかが本質です。点数に一喜一憂せず、指摘の中身を見てください。
🔧 上級者向け:評価基準を先に渡す
ここは応用の話なので、読み飛ばしてOKです。
Anthropicのガイドでも「明確な評価基準があるとき」にこの型が最も効くとされています。評価役に渡す採点基準を自分で指定すると、評価の軸が自分の目的に揃います。
評価役は次の3基準で採点してください。
①継続のしやすさ(40点) ②具体性(30点) ③挫折時の対策(30点)
配点まで指定すると、自分が重視するポイントに評価の重心が寄ります。「何をもって良しとするか」を自分で決められるようになったら、この型は完全に使いこなせています。
まとめ
- Evaluator-Optimizerは「生成役と評価役の人格を完全に分離する」型
- 「100点満点+減点理由5項目」の形式が、評価のごまかしを防ぐ
- 点数より減点理由が本体。改善の手がかりとして使う
大事な提出物があるとき、出す前にこの型で一度審査を通してみてください。人に指摘される前に、AIの辛口審査員に指摘させておく。それがこの型のいちばん実用的な使い方です。
⚠️ この記事の情報は執筆時点(2026年6月)の内容です。AIツールの仕様・挙動はアップデートで変わることがあります。最終確認は各サービスの公式サイトや一次情報でお願いします。
📎 引用・参考
・Anthropic “Building effective agents”(公式エンジニアリングブログ)
https://www.anthropic.com/research/building-effective-agents
次回予告
次回は「Multi-Agent Debate(マルチエージェント討論)」を紹介します。肯定派と否定派に論戦させて、中立の裁定役が結論を出す型です。「決めきれない問い」で特に力を発揮します。
👉 Multi-Agent Debateとは?AIに賛成派と反対派で討論させるプロンプト術


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