AIへの指示で、こんな両極端の失敗をしたことはありませんか。
細かく指定したら、指示した通りのことしかできない融通の利かない出力になった。逆にざっくり頼んだら、期待と全然違うものが返ってきた。細かくしてもダメ、緩くしてもダメ。じゃあ正解はどこにあるのか。
今回紹介する Goldilocks Altitude(ゴルディロックスの高度) は、この「ちょうどいい中間」を設計するための考え方です。名前は童話「3びきのくま」で、熱すぎず冷たすぎない「ちょうどいいスープ」を選んだ女の子・ゴルディロックスに由来します。
Goldilocks Altitudeとは?
Goldilocks Altitudeは、一言でいうと「指示の粒度を、細かすぎと抽象的すぎの中間に合わせる」考え方です。
たとえると、新しく入った後輩への仕事の頼み方です。手順を1から10まで全部指定したら、想定外のことが起きた瞬間に手が止まります。逆に「いい感じにやっといて」では、期待とズレたものが出てきます。いい先輩は「目的と判断基準を伝えて、細部は任せる」。AIへの指示もまったく同じです。
この考え方は、Claudeの開発元Anthropicが公開しているコンテキスト設計のガイドに登場します。指示は「複雑で壊れやすいロジックをハードコードする」極端と「曖昧で方向性を示さない」極端の間の、ゴルディロックスゾーンに合わせるべきだと明記されています。
📎 Anthropic “Effective context engineering for AI agents”(公式エンジニアリングブログ)
https://www.anthropic.com/engineering/effective-context-engineering-for-ai-agents
なぜ効くのか
①細かすぎる指示は「想定外」に弱い
「Aの場合はこうして、Bの場合はこうして」と分岐を全部書くと、想定していないCが起きたときにAIは判断の拠り所を失います。ルールで縛るほど、ルールの外で壊れやすくなる。
②抽象的すぎる指示は「解釈」がブレる
「いい感じに」「臨機応変に」は、何がいい感じなのかの基準がAI任せになります。中間の高度、つまり「変えない原則+判断基準+任せる範囲」の3層で書くと、想定外に強く、かつブレない指示になります。
コピペOKプロンプト
以下の3層構造をテンプレとして使ってください。中身は用途に合わせて書き換えます。
あなたへの指示を、以下の3層に分けて固定します。
①不変の原則(絶対に変えないこと):[ ]
②判断の基準(迷ったときの優先順位):[ ]
③あなたに任せる範囲(自由に判断してよいこと):[ ]
この3層に沿って、以下を実行してください。
依頼:[ ]
ポイントは③「任せる範囲」を明示することです。①②だけだと結局縛りのリストになります。「ここはあなたの判断でいい」と書くことで、想定外への対応力が生まれます。
実践例:before / after
「1週間分の夕食の献立作成」で試してみました。毎週頼みたい定番タスクだからこそ、指示の高度が結果を大きく左右する場面です。
🔴 before その1:細かすぎる指示
「月曜は和食で魚料理、火曜は中華で肉料理、水曜はパスタ、木曜は和食で…(以下、曜日ごとに指定)」
→ 結果:指定通りの献立は出ましたが、これならAIに頼む意味がほぼありません。しかも「月曜に買った食材の残りを水曜に使う」ような曜日をまたぐ工夫が一切なく、食材の無駄が多いプランでした。枠を全部こちらで決めたので、AIが工夫する余地を潰していた形です。
🔴 before その2:抽象的すぎる指示
「1週間分の夕食の献立をいい感じに考えてください。」
→ 結果:見栄えのする献立が出てきましたが、平日に1時間かかる煮込み料理が入っていたり、うちでは使わない食材が前提になっていたり。「いい感じ」の基準がAI任せなので、こちらの生活と噛み合いません。
🟢 after:3層に分けたプロンプト
あなたへの指示を、以下の3層に分けて固定します。
①不変の原則:平日の調理時間は30分以内。予算は1週間で6,000円以内。
②判断の基準:迷ったら「食材の使い回しやすさ>栄養バランス>目新しさ」
の順で優先。
③あなたに任せる範囲:曜日ごとのジャンル、料理の選択、食材の組み合わせは
すべて自由に判断してよい。
この3層に沿って、1週間分(月〜金)の夕食の献立を作ってください。
→ 結果:「日曜にまとめ買いした鶏もも肉を月・水で使い回し、月曜の副菜の半量を火曜のスープに転用する」といった、枠の中でAIが工夫を効かせた献立が出てきました。守るべき線(時間・予算)は守られ、任せた部分(料理の中身)には自由な発想が入る。これが「ちょうどいい高度」の出力です。
使いどころと注意点
✅ こんな場面で使う
- 繰り返し頼む定番タスク(献立・予定づくり・整理もの)
- 細かく指定して失敗した経験のあるタスク
- 「いい感じに」と頼んでズレた経験のあるタスク
❌ これには向いていない
- 形式が完全に決まっている作業(その場合はDay 6のテンプレ固定で細かく指定してよい)
- 1回きりの単純な質問(3層を書くコストが見合わない)
注意点として、最初から完璧な高度を狙わないでください。1回目の出力を見て「ここは縛りが足りなかった」「ここは任せすぎた」と気づいたら、①②③のどこかを1行直す。高度は運用しながら調整するものです。
🔧 上級者向け:失敗の型で「どの層を直すか」を判断する
ここは応用の話なので、読み飛ばしてOKです。
出力がイマイチだったとき、どの層を直すべきかは失敗の型で判断できます。
- 守ってほしい線を越えてきた → ①不変の原則に追加
- 選択の方向性が好みと違う → ②判断の基準の優先順位を修正
- 出力が硬直的でつまらない → 縛りを1つ減らして③任せる範囲へ移す
「不満の種類→直す層」の対応を覚えておくと、高度の調整が一発で決まるようになります。
まとめ
- Goldilocks Altitudeは「原則・判断基準・任せる範囲」の3層で指示の高度を合わせる型
- 細かすぎは想定外に弱く、抽象的すぎは解釈がブレる。正解はその中間
- 高度は1回で決めず、失敗の型を見ながら1行ずつ調整する
毎週・毎月のように繰り返し頼んでいるタスクが1つあれば、3層テンプレで書き直してみてください。一度ちょうどいい高度が見つかれば、その指示は何度でも使い回せる資産になります。
⚠️ この記事の情報は執筆時点(2026年6月)の内容です。AIツールの仕様・挙動はアップデートで変わることがあります。最終確認は各サービスの公式サイトや一次情報でお願いします。
📎 引用・参考
・Anthropic “Effective context engineering for AI agents”(公式エンジニアリングブログ)
https://www.anthropic.com/engineering/effective-context-engineering-for-ai-agents
次回予告
次回は「Just-In-Time Context Injection(必要時コンテキスト注入)」を紹介します。長い資料を全部貼り付けるのではなく、目次から必要な部分だけを渡す型です。資料が大きいほど効いてきます。
👉Just-In-Time Context Injectionとは?資料を全部渡さないプロンプト術


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